フリーランスで順調に売上が伸びていくと、悩みの種が「法人化」するべきかどうかです。フリーランスが法人化することを「法人成り」といいます。
また、近年「マイクロ法人」を作って節税しようという話も聞くようになりました。個人事業主として活動が認められない活動に対しての節税対策にメスが入りそうで国税庁が「300万円以下は雑所得とする」と2023年ぐらいに改正が入りそうです。こういった背景もあり、売上が1千万円とかなくても法人化を検討する人が増えてきました。
「法人化すると色々とめんどくさそう・・・」
「税理士とか決算とかややこしそう・・・」
「今まで自由な感じでやってきたのに堅くなるかな・・・」
といろいろと想像で感じることあると思います。実際私も2017年に法人化し、まもなく6年経とうとしています。今日はフリーランスが法人化すべきかどうかの判断基準やメリット・デメリットについてご紹介したいと思います。
【この記事を書いた人】
フリーランス・クリエイターの駆け込み寺
株式会社クリエイティブユニバース
樫本祐輝(カッシー@strive)
1985年生まれ 岡山出身大阪在住 フリーランス歴14年&独立支援歴10年。Web制作会社→フリーランスWebデザイナー→ゲーム開発会社→マーケティング会社→NPO法人→フリーランス・クリエイター支援や法人向けコンサルティングで起業・法人化。UI/UXデザインや中小企業のDX支援を手掛ける。2012年よりフリーランスセミナーを大阪・東京にて開催。2013年から続く招待制クリエイターギルド「THE CREATIVE」(有料)。Adobeを始めとする様々な企業と共にクリエイター向け交流イベント「#クリエイター祭り」。家庭も大事にしずっと専業主婦の妻と3児のパパ。これまでお会いしてきたフリーランスは1,000人以上。詳しいプロフィールはコチラ
従来言われてきた法人化のタイミング
これまで言われていた法人化のタイミングは、フリーランス(個人事業主)として売上1,000万円を超え、2年後に消費税の支払い義務が発生します。そのため2年経つ直前に法人化し、創業の特典として2年消費税の支払いが免税されるため、最大4年近く消費税の支払いを回避できるという点からこの方法がベターと言われていました。
しかし、これも2023年10月より始めるインボイス制度によって話は変わってきます。おそらく問題なく稼げる人はインボイス制度において課税事業者になるケースが多いと思われますのでコレまで言われていたこのメリットは薄くなります。
現在では、節税面や信用面での法人化を検討することのほうが多い印象です。この記事でメリット・デメリットをしっかり知ってもらえると嬉しいです。
フリーランス法人化のメリット
まずはフリーランス(個人事業主)からの法人化にはどのようなメリットがあるのか紹介したいと思います。
社会的信用が上がり、仕事が獲得しやすい
全く同じ業務内容や売上だったとしても法人化したほうが信用が上がります。聞いたことがある方やそういったイメージは多いですが、それはなぜでしょうか?
法人化は、登記する必要があり司法書士さんにお願いして定款作ってもらったりなど手間も20万ほどの費用もかかります。登記することで住所も公開することになります。
肩書も「代表取締役社長」(いわゆるCEO)という肩書になるので、身軽で自由人っぽいフリーランスと比べるとかなり信用度が高い肩書となります。
また、各種経費が個人よりもかかる点などもあり、法人を運営しているというのは個人事業主よりも事業の手堅さを証明することになり、信用が個人事業主よりも上がることになります。
将来が安心!厚生年金に加入できる
フリーランスのデメリットの一つに「将来もらえる年金が少ない」という事実があります。
参考:国民年金、満額いくらもらえる?支給額を年収別に解説
フリーランスが加入する国民年金の場合、年80万ほどしか年金がもらえないため、最低限の生活にしかならず、実質働くのをやめることができない可能性があります。月額5,6万ぐらいでは健康的で文化的な生活できませんね。
もしも将来老後の資金に不安があるのであれば、フリーランスの場合は国民年金基金、確定出庫年金、付加年金、小規模事業者共済などの仕組みを利用して自ら老後に向けて積み立てていく必要があります。
そういったあれこれしなくてもマシな厚生年金に加入できるのですが、デメリットとして当然その分社会保険料も高くもなります。
創業融資を受けれる
就活の新卒のように、創業する時のボーナスのようなものが「創業融資」です。日本政策金融公庫や銀行などから創業時に良い条件で融資してもらえます。もちろん何かしらの事業経験などは問われますが、一度創業してしまうとその1年間の決算書を見て融資できるか判断されることを考えるとゼロベースで判断してもらえる方や楽でしょう。
ゼロからまっさらな状態で将来の期待も含めて金額が決定するか、実際に1年間など創業した後の成績を見て判断されるという選択肢の場合、ゼロの状態でも資金を持てたほうがビジネス的な成功率は上がるので、融資を受けるのであればこの創業時というのは重要なタイミングなのです。
私も創業融資を利用しましたが、大阪梅田で事務所を借りるための頭金としてまとまったお金が必要のため利用しました。ちゃんと返していけるだけの売上があれば、資金を減らさずに投資ができるのでとても助かりました。
また、借り入れは法人の与信枠を使った法人格の借金のため、代表個人の借金ではないので与信枠を残したままお金を借りることができるのも人によってはメリットになります。
フリーランスよりも節税の幅が広がる
税金の話は細かくなってしまうので、大阪の知り合いの税理士Youtuberヒロさんのこちらの動画「個人事業主vs法人・税金計算編」をご覧ください。
これは一例ですが、節税の選択肢は単純に法人の方が多いため節税できる幅は法人>個人事業主>会社員となりますので生活できる以上の余裕があるのであれば節税のために法人化もありでしょう。
最近では節税のために一人法人化するマイクロ法人も増える傾向にあります。
フリーランス法人化のデメリット
当然メリットばかりではありません。ここからは法人化のデメリットを紹介したいと思います。
社会保険料がホント高い
まず法人化するとびっくりするのがこれだと思います。自分への収入を3歩進んで1歩下がるかのように遠慮なく徴収されます。もちろん先程説明した年金が増えるなどのメリットはありますが、法人化すると「社会保険料を頑張って払うために仕事頑張ってる」と錯覚しそうなぐらい高いです。
フリーランスのときは、まとまったお金がほしければ好きに出し入れできましたが、法人化すると自分への給料を経費にできる分、高額な給料を支払うということはそれだけ社会保険料も増えるため自分への報酬を上げにくくなります。
場合によっては社会保険料が支払うのが辛いからと会社をたたんで個人事業主に戻るケースもあったり、これがネックで社員を雇ったりするのが難しいから外注やアルバイトで済ませようとする傾向にもあります。
自分への報酬を一定額を維持する必要がある
フリーランスの時はお金を欲しい時に自由に出し入れ可能でしたが、法人化すると「役員報酬」となり一年間その金額を維持する必要があります。このルールを壊すと決算書に傷が付き信用が落ちてしまいます。
キャッシュフロー意識がより必要
上述のように自分への給料が一定額になるため、より毎月確実にいくら稼ぐ必要があるのか?いくら固定費が必要なのかをフリーランスの時よりもより意識する必要があります。
フリーランスの時は、今月はお金ないけど来月には入ってくるみたいな状況になっても困りませんが、法人化していると役員報酬や税理士への報酬など固定費もあるためそうはいきません。
このように、よりキャッシュフローを意識したビジネスを問われることになります。
固定増!決算があり、税理士が必須になる
確定申告は頑張って個人でもできる範疇でしたが、流石に法人の決算はプロの税理士にお願いすることになるでしょう。ちまちま決算書作ってる暇があるのであれば本業に集中したほうがいいです。また、税務調査があった場合など専門家でなければ対応が難しいでしょう。
登記により、住所や氏名が公開される
登記情報は誰でも取り寄せることができます。そのため社名や住所はある意味パブリックな場に公開されます。そのため自宅を登記住所にするのを嫌がる方もいらっしゃいます。
また、法人化すると税理士や創業融資、パソコンなど各種営業のダイレクトメールなども届くでしょうが、一年も経たないぐらいで収まります。
年金保険・健康保険の加入数を調べるサイトがあるんですが、従業員が何人かとかも検索できてしまいます。
赤字でも最低7万円の法人税がかかる
例え節税に有利とは言え、どれだけ節税しようが赤字であろうが法人の場合は年7万円の法人住民税均等割によって支払いが必要となります。
いつどのタイミングで法人化すべきか?
法人化の売上目安は600万円以上
実際に私が法人化した理由としては売上が増えてきたことにより税金を沢山払っているという実感が強くなってきたためです。特に私の場合は妻が働いていないことや、子供が3人と多いこともあり、他の方よりも経費にできない生活費の割合が大きく、売上が上がっても手元に残るお金が残らないなという状態になっていました。
法人化すると自分の給料も経費として処理することができるため、自由度は減りますが個人事業主と比べるとかなり経費にできる割合が多くなりました。結果的に大きく節税になった実感はあります。
私が法人化したのは売上が900万超えてからでしたが、もう少し早く体感的には700万ぐらいから法人化しても良かったかもしれません。ただし、それはまだまだ右肩上がりが見込まれるケースで一時的な売上げアップでは検討しないほうが良いでしょう。
より信用獲得のため
世の中には法人じゃないと取引ができないケースはあります。私が開催しているクリエイター祭りも参加者200人、関係者もいれると300人近くなるため開催会場によっては個人では契約できないというケースもありました。
金額が大きくなってくると担当者はOKでも会社のレギューション的にNGということもあります。本当に大きな案件だと帝国データバンクの情報が・・・なんてことも聞いたことがあります。
仕事において信用は非常に重要なので、やる気やスキルだけでは解決できないケースもあると知っておきましょう。
社員を雇うため
法人化して、スタッフを雇っていく場合アルバイトではなく、社員で雇う場合一般的には社会保険(健康保険・厚生年金・労災保険・雇用保険)完備して雇用契約を交わすことになります。
雇われる側としては当然「社会保険完備(通称 社保完備)」を希望するのは当然です。(じゃないと自分の給与から更に年金や健康保険を払うことになるので・・・)
値上げのキッカケに
レアなケースかも知れませんが、取引先を整理したり、法人化を機に値上げしたりと行った整理のキッカケとしてもっともらしい理由として「法人化するから」というケースもあります。
創業融資のため
もし、資金調達を考えているのであれば創業時がもっともベストです。最初に数百万円の運転資金があれば多少投資したりなどやりたいことに専念するための時間を確保できるでしょう。
私の場合も、1000万円ほど借り入れ、オフィスを借りたり、代表実績を作るために投資に使いました。法人として規模感が大きくなる分、大きな案件の入金が少し先になってしまうなどありえることなので、確実に借りてよかったと感じています。
創業融資は就職の新卒のように最初はゆるく見てもらえますが操業開始してしまうと実際の決算書などみて判断されることになります。
結論:節税なら法人化がベストだけど、拡大せず自由さ重視なら無理にしなくても良い
節税という点では圧倒的に法人化のほうが有利です。それは間違いありません。
参考までに私が法人化したのは売上が1,000万円を超える見込みがあり、仕事に関係ない固定費が月30万かかるぐらいに法人化しました。(贅沢に見えるかもですが、義母も含めた6人家族の衣食住や車、子供の習い事などと考えていくとそれなりにかかります。)
法人化すると信用も上がる分、事業内容やキャッシュフローなどの堅実さも問われ、自由度を維持するためにあえて法人化しないというのも一つの手でしょう。漫画家や芸人のように先がどうなるか分からない職業や一時的に売上が上がっただけでその先は分からないケースなどもあると思います。
私はこれからある事業を軸にやっていくんだという決意と覚悟があればより上のフィールドを目指して法人化するのは一つの手ですが、そんなに事業を大きくしたくない、先が分からなくて売上を上げ続けるつもりは無いといった場合法人化する必要がないケースも考えられますのでその場合は無理に法人化するべきではないかもしれません。
以上、この記事が法人を目指すかどうかの参考になればと思います。
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覚悟を決めるために法人化する
法人化するというのは節税のメリットももちろんありますが、それ以上に費用も作業も負担も増えることで信用が大きくなることが一番大きなポイントです。
現在プロかどうか分からないフリーランスが多い中でどのように信頼を勝ち取るか、そういった選択肢として法人化を選ぶのも一つの方法です。